「変形性膝関節症と言われたら、何をやめればいいんでしょうか」
膝のリハビリ歴10年、この質問を数えきれないほど受けてきました。そのたびにお伝えしているのは、同じことです。完全にやめるべきことは、思ったより少ない。
日本整形外科学会(以下、JOA)の診療ガイドライン(2023年版)は、運動療法を「実施することを推奨する」治療の第一選択として位置づけています。国際的な骨関節炎研究学会OARSIも、2019年のガイドラインで「教育」と「陸上での運動プログラム」を、ほぼすべての患者に当てはまる中核治療としています。やめることより、続け方を変えることのほうが、答えに近いのです。
この記事では、本当にやめるべき3つのこと、「ウォーキングはしない方がいいのか」という一番多い質問への答え、場面別の注意点、そして続けられた方の経過までをまとめました。「痛みを完全に消す」ことだけを目指すのではなく、「痛みと付き合いながら、やりたいことを続ける条件」を一緒に探していきましょう。
本当にやめるべきことは、3つだけです
やめるべきことは、我慢して動き続けること。自己判断でサポーターをつけっぱなしにすること。体重管理を放置すること。この3つです。
ただ、「やめなさい」だけでは何も変わりません。なぜダメなのか、代わりに何をすればいいのか、そこまで一緒に見ていきます。
①痛みを我慢して、無理に動かし続ける
「できるだけ膝をかばって生活してください」——そう言われた通りにしたのに、かえって動けなくなった。そんな声を、当院でもよく聞きます。
我慢して動き続けることの問題は、痛みや辛さを感じる強さの負荷が、体にとって逆効果になりやすい点にあります。日本理学療法士協会のハンドブックも、「痛みや疲労感を感じた場合はすぐに中止する」ことをすすめています。膝が腫れていたり、熱を持っていたりする状態で動き続けるのは、我慢ではなく無理です。
代わりにできるのは、脚の使い方を見直すことです。どこに体重をかけ、どう踏み出すかを整えたうえで、専門家の指導のもとで段階的に量を増やしていく。ガイドラインが運動療法を強く推奨しているのも、この「段階的に」という前提あってのことです。実際、運動療法による重篤な有害事象は報告されておらず、軽い痛みの増強が一時的に出る程度とされています。
我慢しなくても、続けられます。かばうのではなく、使い方を変えて動く。それが、遠回りに見えて一番早い道です。
②自己判断でサポーターを一日中つける
つけると楽だから、と一日中つけたままにしていませんか。
サポーターそのものは悪いものではありません。ただ、常につけていると、膝まわりの筋肉が働く機会を失います。日本理学療法士協会のハンドブックが示す悪循環の図は、まさにこの状態です。動かさない→筋力が落ちる→柔軟性が落ちる→関節が動かしづらくなる→負担が増える。サポーターの常用は、この入り口になりかねません。
代わりに、場面を選んで使うことです。長時間の外出や、階段の多い日だけ。家の中では外して、自分の脚の力を使う時間をつくる。
そうすれば、サポーターに頼らなくても歩ける時間を、少しずつ増やしていけます。
③体重管理を放置する
動くと痛いから、体重のことは後回しにしている。これもよく聞く話です。
体重減少単独での鎮痛・機能改善効果は、実は限定的だとガイドラインは述べています。ただし、運動と組み合わせた場合は、運動単独より良い結果が複数の研究で報告されています。ある研究では、体重の10%以上を減らした群で、身体機能の改善がより大きかったとも報告されています。放置していい理由には、なりません。
代わりにできるのは、運動と並行して、無理のない範囲で取り組むことです。食事を極端に変える必要はありません。まずは、動ける量を少しずつ増やすところから。
体重管理を後回しにしないことは、選択肢を狭めないことでもあります。
「膝が痛いときは、ウォーキングをしない方がいい?」
一番多い質問に、まっすぐお答えします。
動いていいのか、休むべきなのか。この線引きを、誰も教えてくれない。そう感じている方が、とても多いです。数値の基準があるわけではありません。でも、目安ならあります。
赤:いったん止めて、専門家に相談する
膝が腫れている、熱を持っている。安静にしていても痛む、夜も痛みで目が覚める。こうしたサインがあるときは、自己判断で歩き続けず、専門家に相談してください。
実務上の目安として使えるのは、「痛みが翌日まで残るかどうか」です。歩いた後の痛みがその日のうちに引く場合と、翌日まで重く残る場合とでは、体への負担が違います。数値の基準ではありませんが、判断材料にはなります。
黄:量とやり方を、変える
歩いている途中で痛みや疲労を感じたら、その回はそこで終える。これが基本です。距離を短くする、速度を落とす、靴を見直す、痛い側と反対の手に杖を持つ。ストレッチは、痛みを感じる強さまで伸ばさないこと。逆効果になります。
やめるのではありません。量とやり方を、変えるのです。
青:続けていい
痛みがないときのウォーキングは、続けて構いません。JOAの一般向けリーフレットも、「ひざの痛みがないときもウォーキングやプール歩行など、適度な全身運動を」とすすめています。運動の種類による優劣は、実ははっきり示されていません。ウォーキングでも、筋力トレーニングでも、太極拳でも構わないというのが、複数のガイドラインに共通する立場です。
中等度から重度の変形性膝関節症でも、運動に関連した有害事象はまれで、軽く、一時的なものにとどまると報告されています。怖がりすぎなくて大丈夫です。
場面別:正座・立ち上がり・階段・ウォーキング・ランニング・旅行
隠したいのは、痛みそのものより、歩き方かもしれません。びっこを引いているように見えるのが嫌で、人前では無理に普通に歩こうとする。そんな声を、よく聞きます。場面ごとに、無理をしない歩き方・動き方を整理しました。
正座
正座やしゃがみ込みの動作は、膝への負担との関連が報告されています。ただし、「してはいけない」と言い切れるほどの根拠はありません。心配な方は、椅子や正座椅子を使う、しゃがむときはまず片膝をつく、といった工夫から始めてみてください。
階段
特に、下りがつらい。そう感じる方が多い場面です。日本理学療法士協会のハンドブックは、「昇りは痛くない足から、降りは痛い足から」という足の運び方をすすめています。階段特有の対処法は、「階段で膝が痛い原因と3つのセルフケア」で詳しく解説しています。
立ち上がり・立ち仕事
椅子や床から立ち上がる瞬間、思わず声が出そうになる。そういう方は多いです。手すりや机に手をついて、両脚で均等に体重を受けるだけでも、膝にかかる負担は変わります。立ち仕事の場合は、同じ姿勢を続けず、こまめに体重をかけ替えること。休憩のたびに、軽く膝の曲げ伸ばしをはさむのも有効です。
ウォーキング
先ほどの赤黄青を、そのまま目安にしてください。杖は、痛い側と反対の手に持つと、負担が分散します。
ランニング
「運動不足だし」と少し歩いてみたら、膝に激痛が走った。自己流で再開して、痛めてしまう方は少なくありません。専門家に教わるのと自己流では効率が違う、と後になって語る方が多いのも、ランニング復帰の場面です。
いきなり以前のペースに戻そうとしないこと。まずはウォーキングで先ほどの黄色信号が出ないことを確認し、そこから歩幅や時間を少しずつ伸ばしていく。フォームや着地の仕方を確認してから、距離と頻度を段階的に戻していくほうが、遠回りに見えて確実です。
旅行
長い階段や、長時間の歩行が数日続く。旅行は、膝にとって特別な負荷がかかる場面です。事前に歩く距離を試しておく、休憩の計画を立てておく、サポーターは「ここぞ」という場面用に持っていく。準備さえしておけば、諦める理由にはなりません。
歩けなくなる前に
「まだ我慢できる」「もう少し様子を見よう」。そう先延ばしにしている間にも、膝の状態は変わっていきます。
動かさない期間が続くと、筋力が落ち、関節が硬くなり、次の痛みを呼び込みます。歩き方が崩れ、腰や股関節、反対側の膝にまで負担が広がることもあります。外出が減り、人と会う機会が減っていく。そういう変化も、珍しくありません。
進行を早めるのは、我慢して動かさないこと、あるいは逆に、痛みを無視して負荷をかけ続けること。どちらも極端です。止められるのは、痛みの段階に合わせて、量とやり方を変え続けること。それだけです。
「まだ様子を見よう」と思っている段階こそ、実は一番手を打ちやすい時期でもあります。歩き方の崩れは、本人より周りの方が先に気づくことも多いです。気になる変化があれば、悪化するまで待たず、早めに専門家に相談してみてください。
続けられた人の例:もう一度、そこへ
やめる前に、知っておいてほしいことがあります。同じ診断を受けても、その先を諦めなかった方たちがいます。
71歳で、屋久島へ。前十字靭帯の再建手術から30年。膝からゴリゴリと音が鳴る違和感を抱えていた方が、足首や足指の使い方を見直したことで、屋久島への旅行を実現しました。
もう一度、フルマラソンへ。半月板損傷を抱えた50代の方は、痛みでランニングを中断していました。歩き方と体の使い方を段階的に整え、マラソンに復帰しています。
マチュピチュを、踏破。保存療法を続けながら、標高2,400メートルを超える遺跡への旅を完歩した60代の方もいます。
3人に共通しているのは、診断名ではなく、動きの使い方を変えたことです。諦める理由は、思っているより少ないかもしれません。
自分で判断できないとき
ここまで読んでも、「自分の場合はどうなのか」は、なかなか判断がつかないと思います。それで大丈夫です。
まずは、「変形性膝関節症の初期症状セルフチェック」で、今の状態を整理してみてください。当てはまる項目が多い場合や、この記事を読んでも不安が残る場合は、LINEでご相談ください。症状を伺ったうえで、今できることをお伝えします。あわせて「変形性膝関節症ガイド|進行度別にできることを整理」もご覧ください。
もう少し軽い形で相談したい方には、月¥5,980のオンライングループ講座もあります。同じ悩みを持つ方と一緒に、脚の使い方を確かめていく場です。
受診が必要なサイン
以下のような場合は、整体でのケアより先に、整形外科での受診をおすすめします。
- 安静にしていても痛む、夜も痛みで目が覚める
- 膝が明らかに腫れている、熱を持っている
- 転倒や衝突などの外傷の後に、急に痛みが強くなった
- 膝が急に曲げ伸ばしできなくなった
これらは自己判断で様子を見るべきサインではありません。病院での診察を受け、必要に応じて画像検査や注射などの治療を検討してください。当院で扱うのは、あくまで評価・ケア・運動の範囲です。医療機関での診断や治療の代わりにはなりません。
この記事を書いた人
長山 航大(ながやま こうだい)
理学療法士/Noah Body Condition 院長。膝のリハビリ歴10年。急性期・回復期のリハビリテーション現場での経験を経て、大阪・西中島南方で膝専門整体「Noah Body Condition」を運営。評価・ケア・運動を通じて、膝に不安があっても続けられる脚をつくることをコンセプトにしている。
参考文献:日本整形外科学会『変形性膝関節症診療ガイドライン2023』/OARSI 2019 Guidelines(Bannuru RR, et al. Osteoarthritis Cartilage. 2019)/ACR/Arthritis Foundation 2019 Guideline(Arthritis Care Res. 2020)/Cochrane Review CD004376(Lawford BJ, et al. 2024)/日本理学療法士協会『理学療法ハンドブック7 変形性膝関節症』/GLA:D(Skou ST, Roos EM. BMC Musculoskelet Disord. 2017)